訓読の用法
助詞「は」について文法の働きを取り上げて説明することは、文法論における単位文をみて、そのなかで格関係を重視した用法の解説となるからであろうか、その機能を解説するにもかかわらず、辞書などにも現代語で係助詞とするか、副助詞とするかは、分別し得ないところがある。本来の用法に構文的職能と意味を付与する機能が文レベルと文章レベルにあったのである。
助詞「は」の淵源を漢文の語法の影響に見ようとするので、次に漢文の読み下しを説明することと、辞書項目における取り上げ方を見ておくことにする。
[資料3]
原文の漢字は原則としてそのまま使用するが、次ぎに挙げる漢字は平仮名で表すこと。(文語文法の助詞・助動詞に当るものは平仮名にする、と言うのが基本です)①再読文字で、二度目に読む部分。②「者」を「は」と読む場合。
[資料4]
稷ハ思下フ天下ニ有二ラバ飢タル者一、由中ホ・シト己ノ飢上ヘシムルガレ之ヲ。
(稷は天下に飢たる者有らば、由ほ己の之を飢へしむるがごとしと思ふ。)
[資料5]
光陰者百代ノ過客也。而シテ浮生ハ如シレ夢ノ。
(光陰は百代の過客なり。而して浮生は夢の如し。
わかりやすく漢文の句法を紹介する辞書から、「者」字について解説するのを引用する。
漢文用例を省略して挙げる。
句法1 ①動詞や助動詞の後に置き、それらを体言化して、人・事・物などを表す。「もの」「こと」と訓読する
②形容詞の後に置き、体言化して人や事物などを表す。「もの」と訓読する。
③名詞や名詞句の後に置く。多くの場合、主語であり、それを取り立てて提示することで判断を明確にする働きをする。「…は」と訓読して、「…のものは」「…とは」と訳す。ふつう、文末に断定の助詞「也」を用いて呼応させる。*
漢文訓読の句法で「者」字について、「は」と読み下すことを解説している。この用法を古文での係助詞の用法との対比で見てみると、共通するところが見られる。和文と漢文の訓読を日本語の語法において峻別しようとすることから、これを古語の説明に援用することがない。漢文訓読の語法を成立させてきたゆえんである。
*解説は次に続く。
④数詞「の」の後に置き、いくつかの種類や事情があることを表す。「もの」と訓読したり、そのまま音読し、「…点」「…種」などと訳す。
⑤存在の動詞「有り」の目的語の後に置き、「有二A者一」の形になる。
○アAに名詞が入る場合
「Aトイフものあり「Aなるものあり」と訓読して、「Aという人(者)がいる」と訳す。
○イAに動詞または動詞句が入る場合
「Aスルものあり」と訓読して、「Aする人(者)がいる」と訳す。
○ウAに文(主語∥述語-目的語)が入る場合
「主語ノ目的語ヲ述語スルものあり」と訓読して、「目的語を述語スル主語がいる」と訳す。
⑥比況の動詞「如・若・似」の目的語の後に置き、「如(若)二A者一」 「似二A者一」の形で、「Aナルものノごとシ」「Aナルものニにル」と訓読して、「Aの(ようすの・さまの)ようである」と訳す。
句法2 ①仮定表現の重文で、条件節の後に置き、仮定の意を表す。「…バ」「…レバ」と訓読して、「もし…であれば」「かりに…すれば」と訳す。
②因果関係を表す重文で、結果を示す節の後に置き、原因の文を導く。「…ハ」と訓読し「…のわけは」「…のは」と訳す。
句法3 疑問を表す語気助詞として、疑問の代詞「誰」と呼応して用い、文末に置く。
「…か」と訓読する。ただし、従来の訓読では「…する人」と解して「もの」と読み習わしてきた。 <全訳漢辞海 三省堂 1136-1137ページ 2006年3月>

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